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和歌山地方裁判所 昭和45年(行ウ)9号 判決

和歌山市中之島一四五番地

原告

内田産業株式会社

右代表者代表取締役

内田利司

右訴訟代理人弁護士

伊多波重義

豊川正明

和歌山市宇須一三六番地

被告

和歌山税務署長

西田外茂雄

右指定代理人

陶山博生

永井充

嶋村源

河口進

塩崎寿弥

岡本至功

江里口隆司

山本喜文

右当事者間の頭書事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が、昭和三九年八月二四日付で原告に対してなした昭和三六年度分および昭和三七年度分の重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、肩書地に本店を置き、製材・紙器製造・梱包・映画劇場・ホテル・喫茶店等を経営する会社であるが、別紙一記載のとおり、被告に対し、昭和三六・三七年度分(以下、本件係争年度分という。)の法人税確定申告および修正申告をなした。

2  しかるに、被告は、別紙一記載のとおり、昭和三六・三七年度分につき、いずれも所得金額を更正したうえ(以下、更正処分という。)、右更正額と確定申告額との差額につき差額税を課すると同時に、重加算税をも課する決定をした(以下、重加算税について本件賦課決定処分という。)。

3  そこで、原告は、昭和三九年一二月七日大阪国税局長に対し審査請求をしたが、国税通則法の改正にともない右審査請求は国税不服審判所長がその審理に当ることとなり、同所長は、昭和四五年六月三〇日右審査請求は棄却する旨裁決をなし、原告は、同年七月一一日右裁決書騰本の送達を受けた。

4  しかしながら、本決賦課決定処分は、重加算税を賦課するための要件を充足していないから違法であり、取消しを免れない。

二、請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実はいずれも認めるが、同4の事実は争う。

三、抗弁

1  所得金額

原告の本件係争年度分の所得金額は、別紙一の「更正および重加算税の賦課決定」欄の「所得金額」欄記載のとおりである。

2  本件賦課決定処分の経過

(一) 不正経理の内容および調査の経過

被告は、昭和三八年四月上旬から同年一〇月までの間において、部下職員に命じて、原告の本件係争年度分およびその前年度(昭和三五年度)分の法人税調査を行なつたところ、原告が、ホテルの売上金や映画劇場のスライド収入を公表帳簿より除外したり、架空の材料仕入等を公表帳簿に計上するなど、経理上の不正処理により多額の法人税を逋脱している事実を把握した。すなわち、

(1) まず、調査担当者は、原告の各種事業部門のうち、その事業の性格上、日々の記帳状況や現金管理の状況等の把握を目的とする、いわゆる現況調査が特に必要とされるホテル部門(日の丸ホテル)に赴いて調査した。その結果、フロント事務所内の同経理責任者の机内から、同ホテルの最近二ケ月間の日々の収入金額につき、本勘定計上額、収入除外額およびその合計額に区分記載したメモ等、同ホテルの不正事実を窺うに足りる書類を把握した。そこで、これらのメモ等を根拠に代表者や経理責任者等に対し、同ホテルの不正経理に関し説明を求めたが、右関係者等は、不正事実を全面的に否認するのみで、具体的な答弁は一切しようとしない状態であつた。

(2) このため、調査担当者は、原告の取引銀行である株式会社紀陽銀行中ノ島支店に赴き、右メモ等の記載事項を手がかりに調査を続けたところ、同年六月頃までに、右収入除外金を日々入金していると認められる根本武司ほか四口の架空名義の普通預金を発見し、これらの預金の入金状況等から原告は、昭和三五頃より継続的に同ホテルの日々の収入金額のうち、ほぼ半額を除外していることが容易に推認された。

また、この間、右銀行調査に併行して行なつていた原告の帳簿調査や取引先に対する反面調査等から、原告は、右ホテル部門の収入除外のほかにも、製材や紙器部門において、多額の架空仕入や架空経費を計上して不正を行なつていることが推認されるに至つた。

(3) 右のように原告の不正事実は多額でありかつ複雑であつたので、さらに十分な調査を尽くすため、被告は本事案を署内の特調班に移した。右特調班による調査は同年八月上旬より開始され、同年九月末頃までには、架空名義の普通預金一〇数口の発見等、原告の各部門における合計約六、〇〇〇万円にのぼる売上除外の事実を把握するに至つた。

(4) この間、調査担当の職員は、新たな不正事実の発見あるいは簿外預金判明の都度、原告の代表者等に説明を求めていたのであるが、相変らず不正経理を全面的に否認する等不誠実かつ非協力的な態度に終始していたところ、右のような調査の進展をみるに至つて、ようやくその態度を改め、同年九月中旬公認会計士海老三郎を代理人として、調査の協力を申し出、同年一〇月中旬には、代表者と右海老両名が来署し、特調班に対し、これまでの調査に手数をかけさせたことを詫びるとともに、不正経理の事実を全面的に認め、これが簿外預金のすべてであるとして、ジュラルミンのトランクに入れて持参した定期預金証書等を提示した。

(5) 被告は、右提示にかかる証書等の内容について検討を加え、同年一〇月下旬頃までに調査各年度毎の別口損益計算書および別口貸借対照表の大綱を完成するとともに、大阪国税局査察部門に右不正経理の事実を連絡した。同査察部門は、右連絡事実に関し、同年一一月二二日法人税法違反嫌疑事件として、国税犯則取締法に基く調査に着手し、昭和三九年七月六日に原告等を和歌山地方検察庁に告発した。そして、原告およびその代表者内田利司は、昭和四〇年二月九日法人税法違反の嫌疑で和歌山地方裁判所に起訴され(同裁判所昭和四〇年(わ)第四八号事件)、次いで昭和四四年一二月一七日有罪判決の言渡を受け、同判決は、翌昭和四五年一月六日確定した。

(6) その間、原告は、右査察部門の調査着手の前日である昭和三八年一一月二一日に第一回目の、また告発の一〇日前である昭和三九年六月二三日に第二回目の前記修正申告書を提出した。

(二) 更正処分ならびに本件賦課決定処分

そこで、被告は、右調査の結果を検討したうえ、原告の本件係争年度における収支関係を別紙二、三のとおり認定し、昭和三九年八月二四日本件係争年度分の所得金額および税額を別紙一記載のとおり更正した。そして、右のような経過によれば、原告の先の過少申告は、旧法人税法(昭和四〇年三月三一日法律第三四号による改正前のもの)四三条の二の一項(昭和三七年法律第六七号により削除)、国税通則法六八条一項に規定するところの、課税標準あるいは税額等の計算の基礎となるべき事実(の全部又は一部)を「隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づいて」申告書を提出したものであることが明白であり、しかも、二度にわたり修正申告書が提出されてはいるが、それは旧法人税法四三条三項、四三条の二の三項、国税通則法六五条三項、六八条一項括弧書に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでない」とはいえず、むしろ積極的にこれを予知してなされたものというべきであるから、前同日、昭和三六年度分については旧法人税法四三条の二の一項、昭和三七年度分については国税通則法六八条一項により、本件賦課決定処分をなしたものである。

(三) 重加算税額の算定

(1) 原告の昭和三六年度分の更正処分による所得金額の加算および減算の内訳は、次のとおりである。

確定申告額 五、〇四六、七二五円

(加算)

別口利益金 二五、五三〇、五七八円 重加算税対象所得

給料手当 六五五、八〇〇円

事業税加算金 六六、九〇〇円

認定利息 四四、一四一円

債権償却引当金戻入 一八一、三七九円} 仮装・隠ぺいでないことが明らかなもの

(減算)

減価償却費認容 二三、三二〇円

未納事業税 八四八、八三〇円

申告調整誤り 一九九、九七〇円

差引更正所得金額 三〇、四五三、四〇三円

昭和三六年度分の重加算税額については、旧法人税法四三条の二の一項により、まず増差税額(更正処分による税額と確定申告による税額との差額)から隠ぺいまたは仮装されていない事実に基く税額として法人税法施行規則三七条(昭和三七年政令一三六号による改正前のもの)によつて算出した税額を控除することになるが、本件の場合、右の加算金のうち別口利益金を除いた金額(九四八、二二〇円)よりも減算金額(一、〇七二、一二〇円)の方が上回るので、控除税額はないことになり、結局右増差税額に五〇パーセントを乗じた額が重加算税額となる。したがつて、被告は、原告に対し、更正処分による法人税額一二、二四八、三一〇円と確定申告による法人税額一、九三七、九二〇円との差額一〇、三一〇、〇〇〇円(旧法人税法四三条の二の四項により一、〇〇〇円未満の端数切捨)に五〇パーセントを乗じた五、一五五、〇〇〇円を重加算税として賦課決定したものである。

(2) 次に、原告の昭和三七年度分に対する更正処分による所得金額の加算および減算の内訳は、次のとおりである。

確定申告額 一七、五九二、八八三円

(加算)

別口利益金 三一、二二一、七〇七円 重加算税対象所得

給料手当 三六〇、〇〇〇円

市民税加算もれ 三九、二四〇円

認定利息 三八九、七九三円

価格変動準備金戻入 一、一〇〇、〇〇〇円

貸倒引当金戻入 五〇〇、〇〇〇円} 仮装・隠ぺいでないことが明らかなもの

(減算)

接待交際費認容 四二、三〇一円

減価償却費認容 一七、八七五円

未納事業税 三、〇四八、八〇〇円

差引更正所得金額 四八、〇九四、六四七円

昭和三七年度分の重加算税額については、国税通則法六八条一項により、まず増差税額から隠ぺいまたは仮装されていない事実に基く税額として国税通則法施行令二八条一項によつて計算した税額を控除することになるが、本件の場合、右の加算金のうち仮装・隠ぺい額である別口利益金を除いた金額(二、三八九、〇三三円)よりも減算金額(三、一〇八、九七六円)の方が上回るので、控除税額はないことになり、結局右増差税額に三〇パーセントを乗じた額が重加算税額となる。したがつて、被告は、原告に対し、更正処分による法人税額一九、九五五、四二〇円と確定申告による法人税額八、〇六二、二六〇円との差額一一、八九三、〇〇円(国税通則法一一八条三項により一、〇〇〇円未満の端数切捨)に三〇パーセントを乗じた三、五六七、九〇〇円を重加算税として賦課決定したものである。

四、抗弁に対する認否および主張

1  抗弁1の事実は認める。同2(一)のうち、原告およびその代表者が起訴されて、有罪判決の言渡を受け、同判決は確定したこと、(二)のうち、更正処分および本件賦課決定処分の経過および(三)のうち、重加算税額の算定過程(ただし、その前提となる別口利益金の仮装・隠ぺいおよび更正を予知していたことについては否認する。この点は後述のとおりである。)はいずれも認めるが、その余の事実はいずれも否認する。

2  原告の本件係争年度分についての二度にわたる修正申告書の提出は、「その申告に係る国税についての調査があつたことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当るから、重加算税賦課の要件を欠くものである。

(一) 右規定の解釈に当つては、重加算税が現行税制上占る地位についての理解が不可欠である。現行税制(本件賦課決定処分当時も同じ。)は、納税者が申告する際の仮装あるいは隠ぺい行為に対しては、逋脱犯として刑事罰に処するとともに、ほぼ同じ要件で重加算税をも課することにしている。右重加算税の制裁的性格を考えるとき、同一行為につき二重処罰を禁止している憲法三九条に違反する疑いが極めて濃厚である。しかるに、この問題について、最高裁判所は、次のごとく判示して、刑罰の他に追徴税を課することは憲法違反でないというのである。「・・・すなわち法第四八条一項の 脱犯に対する刑罰が「詐欺その他不正行為により云々」の文字からも窺われるように、脱税者の不正行為の反社会性ないし反道徳性に着目し、これに対する制裁として科せられるものであるに反し、法四三条の追徴税は、単に過少申告・不申告による納税義務違反の事実があれば、同条所定のやむを得ない事由のない限り、その違反の法人に対し課せられるものであり、これによつて過少申告・・・による納税義務違反の発生を防止し、もつて納税の実を挙げんとする趣旨に出てた行政上の処置であると解すべきである。」(最判昭三三・四・三〇)。

この議論は、今日の罰金と重加算税との併科にもあてはまると思われるが、この場合重加算税の賦課が憲法違反を免れるためには、右判決もいうように、要するに国家の租税収入の確保がその唯一の目的でなければならない。そして、逋脱罪に対する刑罰が現実には重加算税と同一の機能を果している以上は、立法論としては重加算税制度の廃止論が強く主張されているほどであつて、現実に重加算税賦課の要件の有無を検討する場合には、このような制度上の問題点を充分配慮しなければならない。

このような見地から、前記「予知してされたもの」であるという意味を考えると、これは納税者に対する当該国税に関する実地または呼出等の具体的調査により、申告不足額が発見された後にされた修正申告をいうものと解すべきである。換言すれば、納税者の自発的申告の場合は「予知してされたものでない」と解されるのである。

右解釈をより具体的に検討すると、右の場合は、税務署等の官庁の具体的調査により、自ら獲得した資料によつて、具体的な申告不足額が発見され、右事実により当該官庁が右不足額に相応する更正処分をなし得る段階に達した後に修正申告がなされたものをいうのであつて、この場合は、納税者にかかわりなく、税務署において、すでに自ら独自に収集した資料により具体的な更正処分をなし得る態勢をととのえているのであるから、もはや納税者による自発的な修正申告の余地はなくなつているのである。これに反して、調査が全くなかつた段階で修正申告がなされた場合には、たとえ納税者において、事後のあるべき調査を予期してなされたものであつても、重加算税を賦課されないことは勿論のこと、たとえすでに当該官庁の調査が開始された後であつても、いまだ官庁において自ら更正処分を下し得る程度の資料を得ていない段階で、納税者が自ら改心して真実の資料を官庁に提供し、かつ自ら提供した資料に基き修正申告をなした場合には、重加算税を課することはできないものといわなければならない。

(二) これを本件についてみると、被告は、すでに昭和三八年四月頃より調査を開始していたが、原告の脱税が極めて複雑な様相をきたしていたために、自らの調査によりいまだその脱税の事実を掌握していない段階で、原告代表者内田利司は、同年七月頃より海老会計士の全面的協力のもとに、会社と個人の収入が渾然一体をなしていた原告の経理の実体の追求に乗り出し、同年一〇月には、修正申告のための準備をすべて完了していた。そして、原告側の調査期間中は、被告においても、むしろ原告の調査による資料の提出および修正申告待ちの状態にあり、たまたま強制捜査の前日に修正申告がなされたのは、ひとえに海老会計士の一身上の都合によるのであり、右のような極秘事実である捜索差押令状発布の事実は、原告において知るよしもなかつたのである。このような全く偶然の事実を不当に重視したことが、被告の本件賦課決定処分の大きな一因になつたことは、原告にとつては全く心外であつた。

そして、第一回修正申告後も、引続き原告と国税局担当官との間の折衝の過程で、両者の間にスライド収入、貸倒引当金等の問題で見解の相違が生じ、原告は、担当官に全面的に妥協し、昭和三六年度分については七〇〇万円、昭和三七年度分については九〇〇万円、それぞれ第一回修正申告額に上積みして第二回修正申告をなしたのである。被告の更正処分は、要するに原告が第一回修正申告に際して提供した事実・資料に基き、しかもこれを前提にした際に生じた両者の見解の相違について、被告側の意見を全面的に採用してなされたものであり、その基礎となつた資料は、原告が自主的に提供した資料および修正申告に全面的に依存するものである。

以上のとおりであつて、原告の二度にわたる修正申告は、被告の「更正があるべきことを予知してされたものでない」ことは明らかである。

3  のみならず、被告が本件賦課決定処分の対象とした前記別口利益金について、原告には仮装・隠ぺいの事実はなく、また、少くとも仮装・隠ぺいの意思はなかつた。

(一) 原告は、元来現在の代表者内田利司の父内田利一の経営する個人企業であつて、名称は内田利一商店といつたが、内田利司が同商店に勤務してから間もなく法人組織になり、その商号を株式会社内田利一商店と名乗り、その後商号を現在の名称に変更した。内田利司は、法人組織になつて以来、常務取締役として父の片腕として働き、昭和三三年一一月に父が死亡してからは、自ら代表者となつて原告を名実ともに統轄して業務を拡張し、現在の発展へと導いた。

以上の経緯から、原告のすべてのポストおよび株主は、内田一族で占めていた。そのために法人組織になつてから後も、個人的色彩が強く、その経営も非近代的で個人と会社の人格的分離が徹底されていなかつた。この状態は、内田利司が代表者になつてからも変ることがなかつた。本件係争年度の原告の確定申告の際も、右内田は、前近代的な経営感覚から、重税に反発する気持も手伝つて、法人の財産の多くを個人財産として取扱う等し、多額を結果的には逋脱するに至つた。したがつて、かかる取扱いが客観的に正しいかどうかは別として、原告には本件別口利益金のすべてについて、「仮装・隠ぺい」とまで評される程の事実はなく、少くともその意思はなかつたのである。

(二) 右の点をさらに具体的に敷衍する。

(1) スライド収入

原告の経営する日の丸劇場における映写等による収入については、かねて原告の取締役会で、その運営と収入を内田利司個人に委せる旨議決しており、同人もこれに基き、昭和三五年度以降個人の所得として申告してきた(多少過少ではあるが)。また、同劇場には会社従業員がいるが、これらに対しても内田は個人のポケツトマネーより給与外手当を支給し、映写機も三台のうち二台は同人が購入した。そして請求書の表示も、「日の丸劇場内田利司」となつている点よりして、スライド収入については、同人には仮装・隠ぺいの意思はなかつたものである。

(2) 株式配当

株式の買受けについては、原告の簿外資産により購入したものではなく、すべて公表帳簿に内田個人に対する貸付金として記載されている。したがつて、内田は、これに対する利息を原告に支払つている。この点でも、同人には仮装・隠ぺいの事実はなかつた。

(3) 給与除外

原告の従業員に対する給与か否かについて、青野千恵子、湯口美智、西田泰子、内田ヤヨ子、内田孝子らに対する給与があるが、原告のような同族会社においては、身内の者らに対して給与支給の名目のもとに生活費を支給している例は、一般に広く行なわれているのであり、かかる例にてらして同人らに金員を現実に支給しているのであつて、この点でも、仮装・隠ぺいの意思はなかつた。

(4) 貸倒金

昭和三六年度における岡精一に対する四五〇万円の貸倒金、および昭和三七年度における二五〇万円の貸倒金については、当時原告が現実に回収しておらず、将来も回収の見込みがなかつたものであるから、仮装・隠ぺいの意思はなかつた。

(5) なお、右スライド収入は、昭和三六年度一二五万六、七〇〇円、昭和三七年度一八一万六、七〇〇円であり、株式配当金は、昭和三六年度二四万三、八六四円、昭和三七年度七二万九、六八五円、従業員給与は、昭和三六年度一五二万〇、六一八円、昭和三七年度一五三万九、二六六円である。

以上のとおりであつて、本件賦課決定処分の対象たる前記別口利益金について、原告には、仮装・隠ぺいの事実も、その意思もなかつたのである。

五、原告の主張に対する反論等

1  「更正があるべきことを予知してされたもの」の意義前記の旧法人税法および国税通則法に規定する修正申告書の提出が「・・・調査があつたことにより・・・更正があるべきことを予知してされたものでないとき」の意義は、次のように解すべきである。

元来、納税義務者たる法人は、申告納税制度を採る法人税法に基き、自らの所得を適正に計算し、法定の期限までに真実の課税標準等および税額等を申告し納税すべき義務を負つているものであり、重加算税等に関する右規定も、右制度のもとにおいて、たとえ一たんは不正の確定申告をした場合においても、課税庁の調査の前に、自ら修正または申告をした者に対しては、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税はこれを徴収せず、政府の調査前における自発的申告または修正を歓迎し、これをしようようせんとする趣旨に出るものと解されているのである。

したがつて、確定申告において、仮装・隠ぺいの不正行為により、不実の申告をして税を免れておき、その後課税庁の調査を受け、調査の進展を窺いながら、いか程の不正額が発見されたか、ないしは発見される見込みであるかに応じて、更正処分通知の到達前までに修正申告書を提出することにより、重加算税の課税等を免れるがごとき解釈は、明らかに右法意を滅却するものであり失当である。

いいかえれば、課税庁の調査がまだ更正処分を下し得る程度まで進んでいない段階においてなされた修正申告であつても、調査の経過により納税義務者たる法人が該調査の結果更正のあるべきことを予知してなされた場合には、本条項の要件をみたすものではない。

そこで、本件賦課決定処分についてみるに、前叙の調査の経緯から明らかなとおり、被告は昭和三八年四月上旬に実地調査に着手し、同年九月末にはすでに本件不正経理のほぼ全貌を把握し終え、同年一〇月下旬には大阪国税局査察部門に本件不正事実の全貌を連絡しているのである。もつとも、被告は、同年一〇月中旬原告代表者から架空名義の預金等隠ぺい資産にかかる明細の提示を受けているが、これは本件不正経理によつて得た資金の使途(資産化)を明らかにするようにとの被告のたびたびにわたる求めに対し、右代表者がこの段階に至つてようやく応じたまでのことである。したがつて、その後原告からなされた、被告がすでに把握していた不正事実とほぼ同内容の第一回修正申告およびその後大阪国税局査察部門の調査で脱漏を指摘された部分をとり入れてなされた第二回修正申告は、いずれも更正があるべきことを予知してなされたものでないときに該当しない。

2  また、本件賦課決定処分の対象とした前叙別口利益金は、いずれも原告の仮装・隠ぺいの事実にかかるものであることは明らかである。

次に、スライド収入についていえば、スライド映写に関する営業は、すべて原告の設備・従業員を使用して行なわれ、その収入金は紀陽銀行中之島支店の別口(架空名義)普通預金として入金されており、また経費はすべて原告の預金として計上されていることよりすれば、これは原告の収入を仮装・隠ぺいする行為の定型的なものというべきである。

株式配当については、被告が別口利益金として問題にする配当は、原告がホテル売上除外金等による別口資金(紀陽銀行中之島支店架空名義普通預金等)によつて取得した株式の配当金のうち、本勘定計上もれのものの本件係争年度の合計額で、これらはいずれも本勘定社長借入金に仮装入金されている(したがつて、原告の益金として計上されていない。)ものであつて、これまた仮装・隠ぺい行為であることは明らかである。

また、給与除外については、青野千恵子(原告代表者内田利司の父の内妻)、湯口美智(同上)、西田泰子(右内田利司の姉)、西田ヤヨ子(右内田利司の弟の妻)、内田孝子(右内田利司の姪)は、いずれも原告の業務に全く従事していないにもかかわらず、従業員給与として本勘定に計上し、その給料の一部は紀陽銀行中之島支店の別口(架空名義)普通預金に入金していたものであるから、これも典型的な仮装・隠ぺい行為である。

最後に、貸倒金について原告の主張するところは不明であるが、貸倒金の存否は、被告の主張する別口利益金が仮装・隠ぺい行為によるものか否かとは何ら関係ないのであつて、主張自体失当である。

以上のとおり、本件賦課決定処分の基礎となつている別口利益金は、いずれも仮装・隠ぺいによるものである。

第三、証拠関係

一、原告

1  甲第一、第二号証

2  証人海老三郎、同藤原儀一、同山本保、原告代表者本人

3  乙号各証の成立は、いずれも認める。

二、被告

1  乙第一ないし第一七号証

2  証人福田当司

3  甲号各証の成立は、いずれも認める。

理由

第一、請求原因1ないし3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

第二、抗弁に対する判断

一、所得金額

原告の本件係争年度分の所得金額が、別紙一の「更正および重加算税の賦課決定」欄の「所得金額」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二、本件賦課決定処分の経過

前記争いのない事実に、いずれも成立に争いのない乙第四ないし第一五号証、証人福田当司、同海老三郎、同藤原儀一の各証言、原告代表者本人尋問の結果(ただし、海老三郎の証言、原告代表者本人尋問の結果については、後記のとおり採用しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告の実態

原告は、亡内田利一が、昭和二五年一二月二二日それまで同人が個人商店として営んでいた製材・製函業を法人組織に改組し、株式会社内田利一商店とし(その後昭和三八年一月一〇日現在の商号に変更)、自ら代表取締役に就任して発足したもので、資本金は、設立当初一〇〇万円、その後昭和三六年一一月に四〇〇万円、さらに昭和三七年一二月に八〇〇万円にそれぞれ増資された。事業内容としては、昭和二六年一二月に日の丸小劇場の経営を加えたのをはじめとして、営業部門の拡張をはかり、本件係争年度には、製材・木材・梱包・劇場経営・紙器(ダンボール)製造・ホテル経営・喫茶店経営(ただし、昭和三七年一二月から)の七部門にわたり、工場五、劇場二、ホテル、喫茶店各一を保有して多角経営を行なつていた。原告は、代表者内田利司が株式の過半数を保有するなど内田一族が一〇〇パーセントを保有するいわゆる同族会社である。右代表者は、実父の利一が昭和三三年一一月に死亡した後その地位につき、現在に至つているが、その余の取締役にも、同人の兄弟である内田利與茂、内田昭也、内田茂が就任しており(ただし、事実上常勤しているのは、右代表者と専務取締役内田昭也のみである。)、また右代表者は、原告の子会社であるアサヒ工業薬品株式会社の代表者をも兼ねている。右のような次第で、原告の事実は、事実上代表者のワンマン的な経営に委ねられている。

2  不正経理の内容

(一) 代表者内田利司は、右のような経営の多角化に伴う借入金の支払等に備え、いわゆる裏資金を蓄えることをねらいとして、昭和三四年一一月頃から(ただし、喫茶部門においては昭和三八年一月から本格的に)、次のような方法によつて不正経理をし、法人所得の公表帳簿からの除外をはかつていた。

(1) ホテル・喫茶部門

右部門については、いずれも売上の約半分を除外し、後述のとおり銀行に預け入れていたのであるが、特にホテル部門においては、いわゆる手板(部屋番号、宿泊者、人数等を一覧表に記載したもの)を三枚作り、総売上を記載する手板、売上除外部分を記載する手板、その差額(公表帳簿に記載する部分)を記載する手板の三枚とし、売上除外部分については、毎日現金を代表者のもとへ持参させ、同人もしくは他の従業員がこれを銀行に預け入れた後、公表帳簿に記載する部分についての手板を除く二枚は、これを破棄するという方法をとつていた。

(2) 木材・製材・紙器部門

右部門は、仕入れを他業者より安くし、売値を高くしている関係で、利益率が良く、売上を除外すると不正がわかり易いため、かかる方法をとらず、中岡、北村等の架空名義の仕入先を立てて架空仕入を計上する方法をとり、これに対する支払として原告の会計課から出される現金を、(1)と同様銀行に預け入れていた。また製材の過程で生ずる木片を薪として風呂屋に売却するに際し、その売上の半額を除外していたが、これは製材石数から計算すれば、簡単に不正が判明するので、昭和三六年五月税務署の調査の直前に止めている。

(3) 劇場部門

右部門は、入場税の関係で、入場料の売上除外が難しいので、この点についての不正経理はしていないものの、スライド収入については、スライドの注文、図案の作成、映写、集金、記帳等すべて原告の経費負担によつており、原告の収入であることが明らかであるにもかかわらず、あたかも代表者個人の収入であるかのように装つて、前記(1)(2)と同様右による収入を銀行に預け入れるという方法をとつていた。

(4) 給与・交際費等架空経費の計上等

代表者の父(利一)の内妻青野千恵子、湯口美智、代表者の姉西田泰子、代表者の弟内田茂の妻ヤヨ子、代表者の従妹内田孝子は、いずれも原告に勤務していないのに、これを従業員扱いにして給与を支給し、その半額を預り金として代表者が留保し、前記(1)ないし(2)と同様銀行に預け入れていた。さらに、代表者、専務取締役内田昭也、取締役内田茂の三家庭の家事費用の領収書を、一ないし二か月に一度代表者のもとに集め、原告の経費に仮装できるものを摘出し、一般支払のものと区別するため、領収書の右下、左上に代表者個人の印鑑を押捺したうえ、原告会計課において支出先を別途作出し、接待費、厚生費の支出名目で現金を代表者に手渡すなど、別紙二、三の別口損益計算書記載のような架空経費の計上をしていた。

(二) 代表者内田利司は、右のような手段により手元に留保した金員等を株式会社紀陽銀行中之島支店に預け入れるため、同銀行に架空名義の普通預金口座を設け、相当額が預け入れられると、これをさらに別口の定期預金口座に預け替えるため、あらためて払戻しを受けることにし、また右普通預金口座も、発覚を免れるため一ケ月半程度で解約し、さらに別の架空名義の普通預金口座を設ける方法の繰り返しにより、本件調査による発覚までに、根本武司ほか一五の架空名義による普通預金口座を開設し、前記の金員は、概ねこれに入金していた。なお右口座への預け入れに際しては、「KK」、「C」、「N」等の記号により、金員の性格を区別できるように工夫し、前記金員のほか、原告およびアサヒ工業薬品株式会社の役員報酬の預り金(源泉徴収後の金額の五割程度)や右アサヒ工業薬品株式会社の不正経理による除外金も預け入れていた。

(三) 右のようにして、いつたん普通預金口座に預け入れられた金員は、さらに代表者が払戻しを受け、中井裕ほかの架空名義による定期預金にしたり、原告の土地購入について圧縮記帳処理をしていることに伴う別口支払に当てたり、原告が有価証券を取得するための資金として、代表者から原告に貸付ける形にしたり、あるいは昭和三六年三月頃前叙売上除外のため収益率が不自然になることを避けるため、公表帳簿から除外したホテル関係の仕入代金の支払に当てたりした。

(四) なお、代表者内田利司は、毎年五月ないし六月頃には税務署の調査がなされる関係で、これによつて架空名義の普通預金が発見され、不正が発覚する恐れがあるため、右期間中は普通預金口座を解約し、除外金等は現金で原告の会計課員に保管させていたが、原告の資金繰りに必要がある場合には、代表者からの貸付金という形で、直接原告の会計に入金し、運用させていた。

3  不正経理の発覚から更正および重加算税賦課決定に至る経過

(一) 和歌山税務署は、昭和三八年四月上旬から原告の調査に着手した。担当係官の福田当司ほか一名は、原告経営の日の丸ホテルへ調査に赴いた際、同ホテルフロント事務室内から前記手板を発見し、売上の半分が公表帳簿から除外されていることを突きとめ、即日原告代表者内田利司に対し、右事実についての説明を求めたが、同人はこれに応じなかつた。そこで、右福田らは、翌日から約一週間原告本社に赴いて、本勘定帳簿等の調査を実施したが、不正経理の確かな端緒を把握するまでには至らなかつた。しかし、その後、さらに原告の取引銀行である株式会社紀陽銀行の調査を実施した結果、中之島支店において、先に日の丸ホテルで手板と共に発見した手帳の記載金額と全く一致する預け入れのなされている、西田裕二ほかの架空名義の普通預金口座四口を発見した。しかし、税務署内部の定めによると、法人税調査は一応六月を事務年度としているところ、原告の不正規模が大きく、従来の一般調査では処理できないことが明らかになつたことから、同年五月中旬右一般調査をいつたん打切ることとした。そして、同年七月、署内にあらためて特別調査班を設置し、福田ら三名の担当係官を特別調査に専念させることにした。その結果、同年九月中旬までに、本件係争年度において前叙のような一〇数口座にのぼる多額の架空名義の普通預金がなされている事実を把握するに至つた。

(二) 一方原告代表者内田利司は、当初から税務署の一般調査に極めて非協力的であつたが、前記普通預金口座の発見によつて不正経理の一部が露見し、さらに一般調査から特別調査に移行されたこと等から、早晩国税局査察部に回されることは免れず、いずれ不正経理の全容が発覚するであろうと覚り、従前から懇意にしていた株式会社紀陽銀行本店営業部長山本保の助言等もあつて、それまで必ずしも充分とはいえなかつた原告と代表者個人の資産を区別する等全面的に経理を明確化する趣旨も兼ね、同年七月頃右山本の推挙にかかる税理士藤原儀一に、子会社のアサヒ工業薬品株式会社の経理も合わせて、原告の経理の抜本的な正常化を委ねた。

ところが、経理内容があまりにも乱脈を極め、その規模も大きく、しかも右藤原は、いまだ税理士となつて日も浅く、法人関係に精通していなかつたので、友人の公認会計士海老三郎に事情経過を説明して助力を求めた。こうして、同年八月頃からは右海老が専らその事務に当つた。その間、税務署の担当係官から、再三にわたり代表者内田利司に対して調査の協力要請がなされたにもかかわらず、同人は、依然非協力的な姿勢を崩さなかつたが、その後海老の経理調査が進み、同人から税務署調査の進行状況にてらして、この機会に修正申告をしなければ調査後に制裁を受けることになるので、思い切つてあるだけのものを修正申告すべきである旨勧告されるにおよんで、ようやく事態の重大性に気づき、全面的に税務署の調査に協力する態度にあらためた。こうして、同年九月中旬、海老は、代表者の委任状を持参して税務署に出頭し、代表者による原告の不正経理の全貌を認めると共に、爾後の調査に全面的に協力する旨を申し出た。

(三) 税務署の担当係官は、右申出に対し、調査によりすでに把握ずみの部分ならびにその裏付けとなる資料を一部開示し、未把握部分についての調査ならびに除外金等の資産化についての報告を求めた。これに対し、同年一〇月二五日頃右海老および代表者は、定期預金通帳、有価証券等を持参したので、ここに資産化の状況は明らかとなつた。そこで、担当係官は、代表者らに対し、右資産化の時期等についてさらに調査・報告するよう求める一方、大阪国税局査察部門にこれを連絡した。そして、同査察部門がこれを取上げ、国税犯則取締法に基く強制調査に踏み切ろうとした前日の同年一一月二一日、原告は、第一回修正申告書を提出した。

(四) 同年一一月二二日からは、右査察部門による強制調査がなされ、原告の従業員や代表者の供述聴取等を経て細部にわたつて不正経理の解明が尽され、損金算入等について見解の調整等がなされたが、調査がほぼ終了した昭和三九年六月二三日、原告は、再度修正申告書を提出した。

(五) 被告は、以上の調査の過程における全資料を総合し、各営業部門毎の収入除外額等を検討し、代表者個人の収入と認められるものは除外して損金算入の是非を検討した結果、本件係争年度における原告の別口貸借対照表、損益計算書を別紙二、三記載のとおり確定し、これに基いて同年八月二四日、先になされた再度の修正申告の課税標準、税額につき、一部を減額する更正処分をすると同時に、本件賦課決定処分をなした。

三、事実を「隠ぺいし、又は仮装し、」それに基いて確定申告したといえるか

重加算税賦課の要件は、本件係争年度のうち、昭和三六度分については旧法人税法四三条の二に、昭和三七年度分については国税通則法六八条にそれぞれ規定されている。右法条の各一項に規定する「・・・の計算の基礎となるべき事実(の全部又は一部―ただし国税通則法のみ)を隠ぺいし、又は仮装し」たとは、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行なうことを要するものと解すべきである。

これを本件についてみるに、前叙二2の認定事実によれば、代表者内田利司のなした行為は、いずれも法人税を故意に免れるための不正手段として典型的なものということができるのであつて、除外等した金員を預金し、資産化する過程、さらには税務署の調査がなされることを予期したうえで様々な手段を画策する等いずれをとつても用意周到かつ巧妙を極めており、これらが前記条項にいう事実を「隠ぺいし、又は仮装」する行為に当ることは明らかである。

もつとも、この点につき、証人海老三郎は、代表者にはもともと法人と個人を区別する意識がなく、経理知識に乏しかつたことから、無意識のうちに前叙のような処理をなしたようである、と証言し、また原告代表者も本人尋問において、同趣旨のことを強調するのであるが、右証言はせいぜい推測の域を出ないものであるし、法人と個人を混同するといつても、事柄は経理事務上の高度の知識を要するものでは勿論なく、極めて初歩的な範囲の問題に属するのであり、永年会社の経営業務に携つてきた者の言としては、およそ肯認し難いところである。かえつて、前記認定事実にてらせば、故意に行なつたものとしか認める余地はないのである。右証言ならびに本人尋問の結果は採用できない。

なお、原告は、スライド収入・株式配当・給与除外・貸倒金について、いずれも仮装・隠ぺいの事実や意思がなかつたと主張するが、失当といわなければならない。すなわち、

スライド収入については、前記認定のとおり法人所得をあたかも代表者の個人所得のように仮装し(しかも、前掲乙第一〇号証によれば、個人所得としても大部分を隠ぺいして申告していることが認められる。)たものと認められるのである。また、株式配当については、被告が別口利益金として、本件賦課決定処分の基礎とした配当所得は、前記認定のとおり売上除外等による資金で取得した株式等の配当で、公表帳簿に記載されていないものを意味し、代表者個人に本来帰属しているものは除外されているのであつて、両者を混同しているものと認めるに足りる証拠はない。給与除外等については、前記認定のとおりまさに典型的な脱税行為であり、また、貸倒金については、損金算入の是非の問題であつて、別口利益金が仮装・隠ぺいによるか否かとは何ら関係のないことである。

以上のとおりであるから、原告は、課税標準たる所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいしまたは仮装し、その隠ぺいしまたは仮装したところに基き、本件係争年度の納税申告書を提出したものというべきである。

四、修正申告書の提出が「更正があるべきことを予知してされたものでない」といえるか

1  旧法人税法四三条の二の三項、四三条三項および国税通則法六八条一項括弧書、六五条三項によれば、過少申告がなされた場合であつても、その後修正申告書の提出があり、その提出が「更正があるべきことを予知してされたものでない」ときは、過少申告加算税、重加算税のいずれをも賦課することができないものとされている。

加算税制度は、申告納税方式による国税の徴収に関し、その申告秩序を維持し、納税の実を挙げることを目的として、適法な申告をしない者に対し、一定率の税を課するものであるから、行政上の制裁としての実質を有する。これを過少申告についていえば、税務当局による更正あるいは納税義務者自身の修正申告により、先になされた納税申告が過少であることが判明した場合には、先の申告において、税額の計算の基礎とされていなかつた事実につき、正当な理由があると認められない限り、所定の率による過少申告加算税が課ぜられ、さらにこれに加えて、右税額等の計算の基礎となるべき事実について隠ぺいまたは仮装し、これに基いて納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え重加算税が課せられることとされている(旧法人税法四三条、四三条の二、国税通則法六五条、六八条)。このような制裁を背景として、適正に申告がなされることを促す一方において、税務当局の徴税事務を能率的かつ合理的に運用し、申告の適正を維持するため、税務当局において先になされた申告が不適法であることを認識する以前に、納税義務者が自発的に先の申告が不適法であることを認め、あらたに適法な修正申告書を提出したときには、これに対し右加算税を賦課しないこととされているのである。

以上の趣旨に鑑みれば、前記法条にいう「・・・調査に因り・・・・更正又は決定があるべきことを予知してなされたもの」あるいは「・・・調査があつたことにより・・・更正があるべきことを予知してなされたもの」というのは、税務当局が、当該納税申告に疑惑を抱き、調査の必要を認めて、納税義務者に対する質問、帳簿調査等の実地調査に着手し、これによつて収集した具体的資料に基き、先の納税申告が適正なものでないことを把握するに至つたことを要するものと解すべきである。しかしそれ以上に、税務当局が、申告もれの所得金額を正確に把握し、更正をなすに足りる全資料を収集していなければならないものでもない。そして、先の申告が不適正であり、かつ、申告もれが存することが明らかになれば、いずれ当局によつて更正がなされることは当然であるから、納税義務者において、当局の調査進行により先の納税申告の不適正が発覚することを認識しながら、修正申告書を提出することは、他に特段の事情のない限り、右にいう「調査があつたことにより・・・更正があるべきことを予知してなされたもの」と推認することができるものと解すべきである。

2  そこで、これを本件について検討すると、前叙二3で認定したとおり、原告が第一回修正申告書を提出した昭和三八年一一月二一日当時においては、すでに被告の担当係官は、代表者内田利司に対する質問、帳簿書類の検査、銀行調査等の多角的な実地調査を行なつていたこと、しかも調査の当初から、ホテルの手板、手帳および架空名義の普通預金口座を発見する等原告の納税申告が不適法で、極めて巧妙な手段を弄した脱税事件であることを経験上推測にするに足りる資料を収集していたこと、同年九月中旬、原告が不正経理を全面的に認め、さらに同年一〇月二五日には、右脱税にかかる金員の資産化を裏付ける定期預金通帳等を提出し、これによつて不正経理のほぼ全貌を把握し終えたこと公認会計士海老が、修正申告をするか否かについて代表者に相談したとき、制裁が課されることについても説明したこと、さらに、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は、昭和三五年度の法人税につき更正処分を受けており、代表者もその意味を知つていたこと等から判断すると、原告において、被告の調査進行を知悉しながらなされた修正申告書の提出は、まさに「・・・調査があつたことにより・・・更正があるべきことを予知してなされたもの」というべきである。もつとも、証人海老三郎は、係官から修正申告書の提出を認められていたと証言するが、仮りに、そのような事実があつたとしても、被告としては、さしあたり自発的な修正申告書の提出を待つという方針によつたまでのことであり、むしろ、適正な修正申告書を提出しなければ、更正のなされることは当然予想し得たのであるから、このような事情のもとで、敢えて不適正な修正申告書を提出したことは、まさしく更正を予知してなされたものというべきである。また、原告代表者本人尋問の結果によれば、代表者としては、昭和三八年九月以降税務署の調査に協力し、修正申告書を提出することにより、あるいは加算税賦課の制裁を免れ得るのではないかと秘かに期待していた節も認められないではないが、調査に対する協力は、旧法人税法四五条、現行法人税法一五三条に定めるところの税務職員による質問検査権行使に積極的に応じただけのことで、もとより望ましいことではあるが、これによつて、加算税賦課の適否に消長を来たすものではない。

なお、第二回修正申告書の提出については、前叙認定のとおり当時すでに国税犯則取締法による強制調査の段階に入つており、いずれ被告によつて更正がなされるべきことは、右調査の中で明らかになつて来ているのであるから、これもまた、更正があるべきことを予知してなされたものというべきは当然である。

以上のとおりであつて、本件の二度にわたる修正申告書の提出は、いずれも税務当局の調査により、更正があるべきことを予知してされたものというべきであるから、旧法人税法四三条の二の三項、四三条三項、および国税通則法六八条一項括弧書、六五条三項の適用はないのである。

五、重加算税額の算定

被告が、本件係争年度における所得金額を課税標準として増差税額を算出し、その主張にかかる算定方法により、別紙一記載のとおり本件係争年度の重加算税額を算出したことは、当事者間に争いがなく、関係法規にてらせば、右算定過程は適法なものと認めることができる。

第三、結論

以上によれば、本件賦課決定処分は、いずれも正当であり、何ら違法は存しないから、本訴請求はいずれも理由がないことに帰するので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新月寛 裁判官大藤敏および裁判官宮森輝雄は転任のため署名押印ができない。裁判長裁判官 新月寛)

一、

〈省略〉

二、

別口損益計算書(自昭和36年1月1日 至 同 年12月31日)

〈省略〉

別口損益計算書(昭和36年12月31日現在)

〈省略〉

別口損益計算書(自昭和37年1月1日 至 同 年12月31日)

〈省略〉

別口貸借対照表(昭和37年12月31日現在)

〈省略〉

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